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  スクールリーダーの実践研究を創る
  ―『スクールリーダー研究』の編集・論文執筆―

1.紀要『スクールリーダ-研究』の概要
 スクールリーダ-研究会の紀要『スクールリーダ-研究―教師の学習コミュニティ―』はスクールリーダーが実践研究を発表し交流する場として独自の役割を果たしてきました。スクールリーダー研究会は大学院で実践研究に取り組んだスクールリーダーが、院修了後も実践の世界に埋没することなく実践研究を持続し相互に研鑽する活動を組織してきました。スクールリーダーが実践を省察し論文にまとめる研究活動を支え、実践研究の認識論として「理論知・実践知対話論」を提起して実践研究の羅針盤としてきました。紀要『スクールリーダー研究』はスクールリーダーの実践研究を組織し集約する「培養器」となってきました。
 『スクールリーダ-研究』は創刊号を2010年8月に発行し、その後毎年度1回刊行し、第13号を2020年8月に発行し最終号としました。この紀要は毎号約70頁で400部刊行してきました。内容構成は、特集論文、研究論文、実践論文を三つの柱とし、巻頭言、書評・文献紹介、近況報告、研究会活動資料から構成されています。論文の内容は、①スクールリーダーの学校づくり実践、②教師のライフコース、③スクールリーダーの学びの三領域に分けられます。


2.スクールリーダー研究会の理念と活動
 スクールリーダー研究会は、大阪教育大学の夜間大学院スクールリーダー・コース(その前身を含む)と連合教職大学院学校マネジメントコースの修了生およびその関係者30名強からなる研究会です。会員は、校長・教頭、指導主事、ミドルリーダーなどスクールリーダーとその経験者、大学教員です。大阪教育大学大学院でスクールリーダー教育を学び、修士論文または実践課題研究論文を完成させ、関西地区を拠点に実践研究に持続的に取り組んでいることが共通点です。
 スクールリーダー研究会は「プロフェッショナルなスクールリーダーを志す人々が集い、交流し、高め合う『学びの場』を創り出そうとする学習組織」です。それは「教育実践者と教育研究者が協同して教育現象と教育課題を共に考え立ち向かう時空間」を創り出す文化的営為といえます(創刊号の巻頭言)。スクールリーダーが学校づくりを省察・探究・研究し、報告発表する場が必要不可欠との認識に基づいたものでした。
 スクールリーダー研究会は2008年9月に発足して12年間活動してきましたが、研究大会と研究紀要が車の両輪となってきました。研究大会は原則として春3月と夏9月に年2回開催してきました。そこでの研究発表、実践発表、講演を深化発展させる方針の下、紀要『スクールリーダー研究』(第1号~第13号)を企画編集してきました。
 紀要編集では、研究者と実践者の協働による査読体制を基本としました。このため、学校経営研究者の先生方に「特別会員」をお願いし、編集委員として査読に加わっていただきました。査読は第一査読、第二査読の二段階審査とし、各投稿論文を3名で査読し、その結果に基づいて紀要編集委員会で討議し掲載の可否を決定しました。なお、特集論文についても会員執筆者に対しては、編集委員が読み込み結果を集約し、加筆修正を求めてきました。つまり、紀要編集委員会として、論文の内容と水準を質保証することに尽力してきました。その編集努力に支えられて論文の質を維持向上し、論文数も持続したと言えます。
 査読状況は、第8号~第9号、第11号~第13号の計5冊をみると(第10号は特集論文のため除く)、投稿論文数17本に対して、掲載論文数11本で、掲載率は66%です。内訳は研究論文3本、実践論文8本です。特集論文数は計28本です。巻頭論文は、スクールリーダー研究会の大会およびスクールリーダー・フォーラムでの講演内容に関わって研究論文として寄稿いただいたものです。

3.実践研究の認識論としての「理論知・実践知対話論」の構築
 実践研究の定義と要件、その認識論である「理論知・実践知対話論」は、大阪教育大学大学院におけるスクールリーダー教育の実践16年間を通して理論構成してきました。これについては、紀要第10号の大脇康弘「大学院におけるスクールリーダー教育の実践研究」、「巻頭言」(第8号~第13号)に記述していますが、その概要を記しておきます。
 実践研究は、実践をテーマ化し、その内容・組織・過程を記述し、実践の課題解決と意味を明らかにすることとし、学校づくりの実践研究は、学校づくりのコンセプトとストーリーを軸に、その構造と過程、スクールリーダーの役割と活動を記述し、実践の課題解決と意味を明らかにすることと定義しました。
 そして、実践研究の成果である「実践研究論文」には次の4要件が求められます。
 ①学校づくり実践をテーマ化する(明確な問いを立てる)、②実践の方法と過程を記述する(葛藤や課題も取り出す)、③自己の役割と活動を位置づける(個人と組織を関係づける)、④学校づくりの課題解決とその意味を考察する(個別性と一般性に論及する)。この基本要件を満たすためには、次の取り組みが必要であり効果的です。⑤主要な先行研究(学術論文)を検討し、テーマを焦点化する(テーマを絞り込む)、⑥比較対象事例を選定して、自己の実践と比較検討する(分析枠を作成して事例比較する)。
 スクールリーダーが学校づくり実践を対象化し記述するには、二つの道筋があります。一つは実践の内容と過程を現場の感覚と言葉で整理し物語るベクトルです。実践知・経験則を整理し構成することを通して「持論」「物語知」を形成していきます。
 二つは、学校づくり実践を省察し理論的照射を行うことを通して課題解決と意味づけを行うベクトルです。実践事例を対象化し相対化して、実践の内容・組織・過程を社会的文脈において認識し「実践研究論文」としてまとめていきます。スクールリーダー研究会はこの後者の道筋を選んでいます。スクールリーダーは実践者としての実践的・状況対応的思考と研究者としての理論的・実証的思考を対話させて、葛藤・ジレンマを抱えつつ実践研究に取り組みます。この実践研究を通してスクールリーダーは実践を新たな視点から再構成し、自らの教職アイデンティティを再定義することにつながります。この実践研究を支える認識論として「理論知・実践知対話論」を次のように理論構成しました。
 第一に、実践知(practical wisdom)、理論知(theoretical knowledge)、実践研究(practice research)の三次元を設定し、各々4段階を設定します。第二に、実践知の規準として、a.実践の整理 b.実践の主題化 c.実践の再構成 d.実践の理論化を、理論知の規準として、a.理論の学習 b.理論の内面化 c.理論の再構成 d.理論の構築を、実践研究の規準として、a.テーマの掘り下げ、b.認識枠組の作成、c.実践の相対化、d.実践研究の確立という4段階を仮設します。
 第三に、理論知と実践知の連関として、a.つなぐ、b.往復、c.対話、d.統一(以上を「対話」と総称)という4段階を仮設します。両者は実践知が理論知に支えられ、広がりと深まりをもって次の段階に移行する関係で、実践研究が発展深化します。この4段階は単線的に進行するのではなく、スパイラル的に展開し、停滞・後退・跛行のジグザグがみられます。実践研究では「理論の意識化と実践の対象化」をスパイラル的に展開させることがカギとなります。 以上のことを簡略に図式したのが、次の図です。

  図 理論知・実践知対話論(簡略版、略)

4.教育経営実践の独自性と有用性
 以上を整理すると、紀要『スクールリーダ-研究』は次のような特徴があります。
①スクールリーダーが実践を省察し論文にまとめる
②スクールリーダーの実践研究を組織し集約する
③スクールリーダーが大学院修了後に実践研究を持続し深化させる「培養器」となる
 つまり、スクールリーダー個々人が実践研究に取り組むこと、スクールリーダー研究会としての組織的・集団的に実践研究に取り組むこと、という二重の意味で実践研究を創る活動を重ねてきました。紀要『スクールリーダ-研究』はスクールリーダーが大学院修了後の継続教育を行う拠点となり、「培養器」となってきました。
 この教育経営実践の独自性と有用性は、つぎの点にあります。
①スクールリーダーの実践研究のあり方を12年間にわたって探究してきました。内容領域としては、a.学校づくり実践、b.教師のライフコース、c.スクールリーダーの学びについて、実践研究の論文を蓄積してきました。
②スクールリーダーの実践研究の認識論として「理論知・実践知対話論」を構成し、実践研究を導く羅針盤を提示し活用してきました。
③紀要編集では、教育実践者と教育研究者の協働による査読体制を基本に据えて、実践研究の質保証を図ってきました。
 こうした実践を通して、紀要『スクールリーダ-研究』は確かな内容と水準を確保してきたといえます。

5.研究活動への貢献性
 紀要『スクールリーダ-研究』の編集・論文執筆は、学会の研究活動に対して次のような貢献がみられると思います。
①スクールリーダーの実践研究の方法論を構成し、スクールリーダーの実践研究のあり方を具体的に提起してきました。
②スクールリーダーの実践研究を組織し集団的に取り組むことによって、その意義と課題を明らかにしてきました。
③紀要編集では査読体制を基本にすることによって、スクールリーダーの実践研究を質保証してきました。
④教職大学院修了後におけるスクールリーダー教育の組織的実践を展開することを通して、継続教育の可能性と課題を提起してきました。

 スクールリーダー研究会は4期12年の歴史を刻み、紀要『スクールリーダ-研究』は第13号で閉じることになりました。この研究会は会員の地道な活動と理事・編集委員の尽力に支えられて実践研究を持続し発展してきました。スクールリーダーの実践研究に組織的に取り組み、蓄積し、問題提起してきました。

(付記)
 大阪教育大学を拠点とするスクールリーダー教育の実践は、a.夜間大学院のスクールリーダー教育の実践、b.スクールリーダー・フォーラム事業、c.スクールリーダー研究会の活動の三種類から構成されています。スクールリーダー研究会の活動は、前の二つの実践を基礎に、それを深化発展させようとするものです。紀要『スクールリーダー研究』はその集約点です。
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