---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------日本教育経営学会「実践研究賞」

 

夜間大学院のスクールリーダー教育の実践
―大阪教育大学スクールリーダー・プロジェクトの実験―

 スクールリーダー・プロジェクトは、大阪教育大学を拠点に大学・学校・教育委員会とコラボレーションしながらスクールリーダー教育の構築に取り組んできた。スクールリーダー・フォーラムと夜間大学院におけるスクールリーダー教育が車の両輪となって、教師の学習コミュニティを創り出してきた。この度、夜間大学院の教育実践研究が、フォーラム事業(2012年)に続いて、日本教育経営学会「実践研究賞」を受賞した。受賞対象図書は『ひらく 教師の学習コミュニティ―夜間大学院のスクールリーダー教育』で、夜間大学院スクールリーダー・コースの教授スタッフと現職教員院生・修了生が自分たちの教育実践と学習活動を省察した論稿を総合編集したものである。

 大阪教育大学大学院教育学研究科実践学校教育専攻(夜間大学院と略)は1996年創設以来、現職教員を対象とした実践的・臨床的教育を行ってきたが、2002年以降スクールリーダー教育の取り組みを重ねて、2007年に教師教育の高度化・重点化のために三コース制(スクールリーダー・コース、教職ファシリテーター・コース、授業実践者コース)に再編した。この時点で、入学定員は30名、専任教員25名と非常勤講師8名の教育組織であった。夜間大学院スクールリーダー・コース(SLC)は、2015年に連合教職実践研究科学校マネジメントコース(SMC)(連合教職大学院)へと再編改組され、実践を再構築している。

 夜間大学院におけるスクールリーダー教育は次のように制度設計されている。
①教育学研究科の枠内で実践的研究力と実践的指導力の育成を目的とする。
②「広領域多選択型」カリキュラムの伝統をふまえてコース編成する。
③コース専門科目を内容領域ではなく方法論的に編成し、「理論と方法」「ケーススタディ」「プロジェクト」「インターンシップ」(授業科目名:学校マネジメント学、学校評価、学校づくり、スクールリーダー・インターンシップ)という4科目構成とする。
④コース担当者は専任教員1名(大脇)と非常勤講師4名分である。
 ここではスクールリーダーの「学習コミュニティ」を理念に掲げて、「教育実践者と教育研究者が協同して教育現象と教育課題を考え立ち向かう営為」を創り出すことに力を注いできた。スクールリーダーが出会い、つながり、協同するための「学習コミュニティ」こそが、彼/彼女が学び育つインキュベーター(孵卵器)になると考えたのである。

 夜間大学院は現職教員が「働きながら学ぶ」学習スタイルを基本としている。スクールリーダーが教育実践の理論的基盤を確かめながら実践指針を探究して、実践的研究力と実践的指導力の両者を高めることをめざしている。いわば、「2兎」を追うハイブリッド型夜間大学院である。ここに現職の校長・教頭、指導主事、ミドルリーダーが継続的に入学し、学習と研究を重ねてきた。修了生は31名で、入学時点の属性は校長・教頭12名、指導主事4名、大学教員2名、教諭13名である。未修了者は3名(校長、教頭、教諭各1)である。

 スクールリーダーは学校現場での実践と夜間大学院での学習とを切り分けた上で、両者の連関を見出し、適宜活用する道筋を見出し実践してきた。それは次の四つのレベルに整理することができる。a. 知識・技術・方法をすぐに生かす b.一度格納し適宜引き出す、c.認識枠組(見方・考え方)を再構成する、 d.実践研究としてまとめる。スクールリーダーは厳しい学習条件の中で「理論の意識化と実践の対象化」に取り組み、自らの学校づくり実践を対象化し、当事者による実践的研究として修士論文に集約してきた。端的に言えば、「理論知・実践知対話論」に基づく「実践的研究」をめざしたのである。


 この「実践的研究」には次の5つの要件が求められる。①自らの実践経験に根ざした問題意識を拡充深化させて、理論と実践をつなぐ研究テーマを設定する。②主要な先行研究を読み込んで、問題提起を試みる。③研究の目的・対象・方法を関連づける。④研究テーマを意識した実践を展開し、その内容・方法・過程を対象化し、その意味づけを行う。⑤理論知と実践知の対話を通して、実践を省察・探究・再構成する。この「実践的研究」に取り組むことは容易ではないが、スクールリーダーである院生は、理論と実践を行き来し、実践の省察・探究・再構成を行い、修士論文に仕上げてきた。


 さて、夜間大学院のスクールリーダー教育の実践は、次のような特徴と独自性がある。
a.夜間大学院で、スクールリーダーが「働きながら学ぶ」教育様式を開発してきた。特に、現職の校長・教頭・指導主事、ミドルリーダーを主対象とする教育実践は先進的である。
b.実践的研究力と実践的指導力の両者を追求するようハイブリッド型大学院として制度設計し、独自の教育実践を展開してきた。
c.「広領域多選択型」カリキュラムにおいてコース専門科目を方法論的に4科目構成とし実践展開したことは、実験的で独創性が高い。
d.「理論知・実践知対話論」という学びの認識論に基づいて「実践的研究」をめざして修士論文に取り組んできた。
e.教授者と学習者が協同して、授業実践・学校づくり実践を省察し、継続的に論稿としてまとめてきた。

  このように夜間大学院におけるスクールリーダー教育の「実践研究」は、当事者が独自の実践様式を対象化し、その成果と課題を省察してきた。この実践研究は教育実践の羅針盤となり、教授スタッフとスクールリーダー院生を方向づけ励ましてきた。スクールリーダーは実践研究を通して、実践を省察し再構成するとともに、教職アイデンティティを再定義していくこととなった。その意味で、夜間大学院の実践は新たな実践世界を拓く扉となったのである。

受賞者:大阪教育大学スクールリーダー・プロジェクト:大脇康弘(関西福祉科学大学教授、大阪教育大学名誉教授)、森 均(大阪女学院大学特任教授、大阪府立高校長)、津田 仁(関西外国語大学教授、大阪府教育委員会教育監)、木岡一明(名城大学教授)、小山将史(日本工業大学准教授、堺市立高校教頭)、深野康久(大阪教育大学特任教授、帝塚山学院大学教授、大阪府立高校長)、浜崎仁子(和泉市立小学校長、同教頭)、西川 潔(関西福祉科学大学講師、御所市立小学校長)、以上は(現職、前職)の順。

受賞図書:大脇康弘編『ひらく 教師の学習コミュニティ―夜間大学院のスクールリーダー教育』(SLP、2017、113p.)、参考文献:スクールリーダー・プロジェクト(SLP)外部評価委員会(代表 水本徳明)『スクールリーダーの育成支援』(SLP、2015、50p.)、『スクールリーダー研究』第6号(スクールリーダー研究会、2015、74p.)
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英文 Practice of Education for School Leadership at Night Time Graduate School: Experiment of School Leader Project at Osaka Kyoiku University
Yasuhiro Owaki, Emeritus Osaka Kyoiku University, Kansai University of Welfare Sciences
(付記)『日本教育経営学会紀要』第60号掲載論稿。(文責)大阪教育大学(名誉)大脇康弘